東京地方裁判所 平成3年(ワ)4476号 判決 1993年11月29日
甲事件原告・乙事件被告
株式会社ユニ・ピーアール
右代表者代表取締役
嶋川弘
丙事件被告
嶋川弘
丙事件被告
坂本仁志
右三名訴訟代理人弁護士
青田容
同
増岡由弘
甲事件被告・乙事件及び丙事件各原告
辻廣
甲事件被告
藤井光枝
右両名訴訟代理人弁護士
谷口達吉
主文
一 甲事件被告辻廣及び同藤井光枝は、甲事件原告株式会社ユニ・ピーアールに対し、各自、金一二四万八八二〇円及びこれに対する平成三年四月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 乙事件被告株式会社ユニ・ピーアールは、乙事件原告辻廣に対し、金五九三万四七九〇円及びこれに対する平成三年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 乙事件原告辻廣の主位的請求及びその余の予備的請求並びに丙事件原告辻廣の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、甲事件、乙事件及び丙事件を通じ、これを六分し、その一を甲事件原告・乙事件被告株式会社ユニ・ピーアールの、その四を甲事件被告・乙事件及び丙事件各原告辻廣の、その余を甲事件被告藤井光枝の各負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
(略称) 以下、甲事件原告・乙事件被告株式会社ユニ・ピーアールを「原告会社」、丙事件被告嶋川弘を「被告嶋川」、丙事件被告坂本仁志を「被告坂本」、甲事件被告・乙事件及び丙事件各原告辻廣を「被告辻」、甲事件被告藤井光枝を「被告藤井」とそれぞれ略称する。
第一 当事者の求めた裁判
(甲事件について)
一 請求の趣旨
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は被告辻及び被告藤井の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告会社の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告会社の負担とする。
(乙事件について)
一 請求の趣旨
1(一) 主位的請求
原告会社は、被告辻に対し、三四二二万六七二六円及びこれに対する平成三年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 予備的請求
原告会社は、被告辻に対し、三四二二万六七二六円及びこれに対する平成三年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は原告会社の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告辻の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は被告辻の負担とする。
(丙事件について)
一 請求の趣旨
1 被告嶋川及び被告坂本は、被告辻に対し、各自、一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告嶋川及び被告坂本の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告辻の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は被告辻の負担とする。
第二 当事者の主張
(甲事件について)
一 請求原因
1 原告会社は、フランチャイズ形態による「クレープハウス・ユニ」の経営指導等を目的とする会社である。
2 原告会社は、昭和六三年九月七日、被告辻との間で、原告会社をフランチャイザー、被告辻をフランチャイジーとして、原告会社が被告辻に対し、「クレープハウス・ユニ」に関する商品・原材料のほか経営に関するノウハウを供与し、経営指導を行い、被告辻が原告会社に対し、フランチャイズ加盟料二〇〇万円、開発分担金五〇万円、保証金一〇〇万円、研修費三〇万円、店舗内外装監理費二〇万円の合計四〇〇万円のほかに、ロイヤリティとして月間総売上高の五パーセント相当額を支払うことを主な内容とするクレープハウス・ユニフランチャイズ契約(以下「本件フランチャイズ契約」という。)を締結した。
3 被告藤井は、右同日、原告会社に対し、被告辻が右契約に基づいて負担する債務について連帯保証する旨約した。
4(一) 原告会社は、昭和六三年二月一六日、株式会社新南海ストア(以下「新南海」という。)との間で、原告会社が自ら又はフランチャイジーに委託して、大阪市中央区(旧南区)難波五丁目なんなんタウン四号新南海ストア内の売場なんなんタウン店(以下「本件店舗」という。)を賃借してクレープ等を販売し、原告会社は毎月の売上金をいったん新南海に納入した上、その二二パーセント相当額を賃料として差し引かれて残余七八パーセントの返還を受けることとし、本契約が終了した場合には原告会社において本件店舗を原状に回復して新南海に返還する旨の消化仕入取引契約と称するテナント契約(以下「本件テナント契約」という。)を締結した。
(二) 原告会社は、平成元年二月一日、被告辻との間で、原告会社が同被告に対し、本件店舗におけるクレープ等の販売を委託し、新南海ストアから返還を受けた売上金からロイヤリティ、原材料費等を控除して返還し、同被告は原告会社に対し、原告会社が本件テナント契約に基づき新南海に対して負担する一切の債務を負担する旨の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し、併せて、同契約は本件テナント契約の終了をもって終了する旨合意した。
(三) 原告会社は、平成二年一二月二八日、新南海に対し、本件テナント契約を平成三年一月末日をもって解除する旨の意思表示をし、同年二月一日、本件テナント契約に基づいて本件店舗の原状回復工事を行い、その費用として八二万四〇〇〇円(うち消費税二万四〇〇〇円)を負担した。
5(一) 原告会社は、平成元年二月一日、被告辻に対し、本件店舗において使用する什器備品一式(以下「本件什器等」という。)を賃料一か月九万円の約定で貸し渡し、その際、右契約の終了時における本件什器等の返還費用は同被告において負担する旨合意した。
(二) 被告辻は、原告会社に対し、平成元年四月から平成三年一月までの未払賃料合計二〇三万九四〇〇円(うち消費税五万九四〇〇円)及び本件店舗の閉店に伴う本件什器等の運送料一四万一二一三円(うち消費税四一一三円)の支払義務を負担した。
6(一) 他方、原告会社は、本件業務委託契約の終了及びこれに伴う本件フランチャイズ契約の失効に基づき、被告辻に対し、保証金一〇〇万円及び新南海からの売上保留金五六万九八三四円の返還義務並びに本件店舗に残置されていた同被告所有の包材の買受代金一八万五九五九円(うち消費税五四一六円)の合計一七五万五七九三円の支払義務を負う。
(二) 原告会社は、平成三年五月三一日の本件口頭弁論期日において、被告辻に対し、同被告に対する本件店舗の原状回復費用(4の(三))、未払賃料及び本件什器等の運送料(5の(二))の合計三〇〇万四六一三円中、一七五万五七九三円の支払請求権をもって、同被告の右支払請求権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
7 よって、原告会社は、被告辻に対し、右相殺後の残額一二四万八八二〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年四月三〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告藤井に対し、連帯保証債務の履行請求として右金員の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の各事実は認める。
2 同4の事実のうち、(一)、(二)の各事実は認めるが、その余は知らない。
3 同5(一)(二)の各事実は否認する。
被告辻は、昭和六三年一二月二四日、原告会社から、本件什器等を代金一五〇〇万円で買い受け(以下「本件譲渡契約」という。)、後日三二万四四二三円を返還するという合意の上内金一〇〇〇万円を支払い、残代金五〇〇万円に金利相当分四〇万円を加えた合計五四〇万円を、平成元年二月から平成六年一月まで毎月九万円ずつ分割払する旨約したものである。
4 同6(一)の事実のうち、原告会社が被告辻に対し、その主張の保証金及び売上保留金の返還義務を負うことは認める。
三 抗弁
1 要素の錯誤
(一) 本件フランチャイズ契約の締結時には営業場所は未定であったところ、被告辻は、昭和六三年一二月一九日ころ、原告会社から、営業場所として本件店舗を紹介された。その際、原告会社の業務部次長である被告坂本は、被告辻に対し、同年二月ころから同店舗に直営店が置かれ毎月約一五〇万円の売上があったが、新南海との間において、本件店舗の賃料は月間売上高の二二パーセント相当額とし、最低保証売上高(以下「最低保証」という。)を月四〇〇万円とする、すなわち賃料は最低でも月八八万円である旨の約束が存在したので直営店の経営は苦しかったが、右約束は平成元年二月末日限り撤廃され、同年三月一日以降の賃料は単純に売上高の二二パーセント相当額となる旨説明し、それを裏付ける資料として原告会社と新南海との間で締結された昭和六三年二月一六日付覚書(以下「本件覚書」という。)を示した。そこで、被告辻は、最低保証が撤廃されることになっているのであれば、一層の営業努力により月間売上高を一五〇万円以上に上げれば赤字は生じないと判断して、本件店舗を営業場所とすることに同意し、本件業務委託契約を締結して、平成元年二月一日から平成三年一月三一日まで本件店舗において「クレープハウス・ユニ」としてクレープ等を販売した。しかし、原告会社と新南海との間において平成元年二月末日限り最低保証が撤廃される旨の合意は存在していなかった。
(二) 被告辻は、原告会社と新南海との間において最低保証の撤廃の合意が存在していなかったにもかかわらず、右合意がある旨誤信したものであり、右合意が存在していなければ本件フランチャイズ契約、本件譲渡契約及び本件業務委託契約(以下「本件契約等」という。)は締結しなかったから、本件契約等は要素の錯誤により無効である。
2 詐欺による取消
(一) 1(一)のとおり。
(二) 被告坂本は、原告会社と新南海との間において平成元年二月末日限り最低保証が撤廃される旨の合意は存在していなかったにもかかわらず、右合意があるように告げて被告辻を欺き、その旨誤信させた上、本件契約等を締結させた。
(三) 被告辻は、平成二年一二月一五日、原告会社に対し、詐欺を理由として本件契約等における意思表示を取り消す旨の意思表示をした。
3 債務不履行による解除
(一) 被告坂本は、昭和六三年一二月一九日ころ、被告辻に対し、営業場所として本件店舗を紹介する際、前記のとおり、新南海との間の最低保証の約束の存在と直営店の経営状況を説明した上、新南海との間で右約束を平成元年二月末日限り撤廃する旨被告辻に確約した。
(二) ところが、原告会社は、新南海との間において最低保証を撤廃しなかった。
(三) 被告辻は、平成二年一二月一五日、原告会社に対し、債務不履行を理由として本件契約等を解除する旨の意思表示をした。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1に対する認否
(一) 抗弁1(一)の事実のうち、原告会社が被告辻に対し、営業場所として本件店舗を紹介したこと、その際、被告坂本が被告辻に対し、新南海との間で最低保証を月四〇〇万円とする約束が存在する旨告げ、本件覚書を示したこと、被告辻が本件店舗を営業場所とすることに同意し、平成元年二月一日から平成三年一月三一日まで本件店舗においてクレープ等を販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(二) 同1(二)の事実は否認する。
仮に、被告辻が最低保証の撤廃の合意が存在する旨誤信していたとしても、右動機は本件契約等を締結する際、原告会社に対し表示されず、原告会社はこのことを認識していなかった。
2 抗弁2に対する認否
(一) 抗弁2(一)の事実に対する認否は、1(一)のとおり。
(二) 同2(二)の事実のうち、原告会社と新南海との間において最低保証の撤廃の合意が存在していなかったことは認めるが、その余は否認する。
原告会社は、新南海と本件テナント契約を締結するに際し、最低保証を月四〇〇万円とするが、平成元年三月一日以降はこれを見直す旨合意して本件覚書を交わしていたので、新南海に対し右合意に基づき最低保証を外すよう要望したが、新南海はこれに応ぜず、同日以降の最低保証が月三〇〇万円に減額されたにとどまった。被告坂本は被告辻に対し、最低保証が外れるよう努力したい旨説明したにすぎない。また、最低保証が撤廃されなくても、デパート等の催事を行えば黒字になる目算はあったのに、被告辻はこれを行わなかった。
3 抗弁3に対する認否
(一) 抗弁3(一)の事実に対する認否は、1(一)のとおり。
(二) 同3(二)の事実は認める。
五 再抗弁(抗弁1に対して)
被告辻は、本件契約等を締結するに先立ち、約一七年間銀行に勤務していた経験を有しており、新南海が最低保証の撤廃に応ずる可能性が低いことは容易に判断し得るところであるのに、被告坂本に対し撤廃が容易である理由について具体的説明を求めたり、新南海に対して撤廃の合意の有無を確認したりしなかった。したがって、仮に、被告辻が、最低保証が撤廃される旨誤信したとしても、その誤信について重大な過失がある。
六 再抗弁に対する認否
再抗弁事実のうち、被告辻が原告会社主張のような銀行勤務の経験を有すること及び同被告が新南海に対して最低保証の撤廃の合意の有無を確認しなかったことは認めるが、その余は否認する。
被告辻はいわゆる脱サラで商売については素人であり、最低保証の制度は一般には馴染みの薄いものであって、直接の契約の相手方でない新南海に対して最低保証の撤廃について確認すべき義務があるとはいえない。
(乙事件について)
一 主位的請求の請求原因
1 甲事件の請求原因2のとおり。
2 甲事件の抗弁2の(一)(二)のとおり。
3 仮に、被告坂本の詐欺が認められないとしても、フランチャイズシステムにおいては、店舗経営の知識や経験に乏しく資金力もない個人が本部による指導や援助を期待して契約することが予定されているから、フランチャイザーはフランチャイジーの募集に当たり、契約締結に際しての客観的な判断資料になる正確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているというべきである。したがって、被告坂本は、本件契約等の締結に当たり、被告辻に対し、直営店の売上は最近月一〇〇万円程度であり、最低保証の撤廃又は大幅減額の可能性はないので、月四〇〇万円近い売上を確保しないと本件店舗において商売を継続することは困難である旨説明すべき義務があったにもかかわらず、最低保証が確実に撤廃されると信じ込ませるに十分な言動をし、かつそれを裏付ける資料を示して、被告辻に本件契約等を締結させたものであり、原告会社には信義則上の保護義務違反がある。
4 被告辻は、最低保証が撤廃されないため、本件店舗の営業赤字が続き、平成三年一月三一日をもって閉店を余儀なくされ、次のとおり合計三四二二万六七二七円の損害を被った。
(一) 被告辻は、本件フランチャイズ契約の締結の際、原告会社に対し、研修費三〇万円、店舗内外装監理費二〇万円、フランチャイズ加盟料二〇〇万円、開発分担金五〇万円及び保証金一〇〇万円の合計四〇〇万円を支払った。
(二) 被告辻は、被告坂本の要請で、本件店舗の紹介者と称する川口某に対し仲介料一〇〇万円を支払った。
(三) 被告辻は、原告会社を通じて新南海に対して、本件店舗の賃料として平成元年三月は六六万円、同年四月から平成二年二月までは毎月六七万九〇〇〇円(うち消費税一万九〇〇〇円)、同年三月から平成三年一月までは毎月九〇万六四〇〇円(うち消費税二万六四〇〇円)の合計一八一〇万八二〇〇円を支払ったが、最低保証が存しなかった場合の右期間の賃料は売上高の二二パーセント相当額である九二一万六八八四円であり、その差額は八八九万一三一六円である。
(四) 被告辻が、本件契約等の終了時に原告会社から受領すべき売上保留金は五六万九八三四円である。
(五) 被告辻は、本件譲渡契約に基づき、原告会社に対し、本件什器等の代金一五〇〇万円の内金九六七万五五七七円(一〇〇〇万円から後日返還を受けた三二万四四二三円を控除したもの)及び第一回目の分割金九万円の合計九七六万五五七七円を支払った。
(六) 被告辻が、本件店舗における営業の廃止により被った精神的苦痛に対する慰謝料は一〇〇〇万円が相当である。
5 よって、被告辻は、原告会社に対し、主位的に、民法七一五条一項に基づく損害賠償請求として、右損害合計三四二二万六七二七円の内金三四二二万六七二六円及びこれに対する不法行為の日の後である平成三年二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 予備的請求の請求原因
1 甲事件の請求原因1及び2のとおり。
2 甲事件の抗弁3の(一)(二)のとおり。
3 乙事件の主位的請求の請求原因3及び4のとおり。
4 被告辻は、平成二年一二月一五日、原告会社に対し、債務不履行による本件損害の賠償を請求した。
5 よって、被告辻は、原告会社に対し、予備的に、債務不履行による損害賠償請求として、前記損害合計三四二二万六七二七円の内金三四二二万六七二六円及びこれに対する請求の日の後である平成三年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 請求原因に対する認否
1 主位的請求の請求原因に対する認否
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2の事実に対する認否は、甲事件の抗弁に対する認否2のとおり。
(三) 同3の事実は否認する。
被告坂本が、被告辻に対し、最低保証が外れる可能性があることを誇張して説明したとしても、許されるセールストークの範囲を超えておらず、過失があるとはいえない。
(四) 同4の事実は否認する。
2 予備的請求の請求原因に対する認否
(一)請求原因1の事実は認める。
(二) 同2の事実に対する認否は、甲事件の抗弁に対する認否3のとおり。
(三) 同3の事実に対する認否は、主位的請求の請求原因に対する認否(三)及び(四)のとおり。
四 抗弁
被告辻は、甲事件の再抗弁のとおり、本件契約等の締結に当たり、最低保証が撤廃される旨誤信したことには過失があるから、損害賠償の額を定めるに当たっては斟酌されるべきである。
五 抗弁に対する認否
甲事件の再抗弁に対する認否のとおり。
(丙事件について)
一 請求原因
1 乙事件の主位的請求の請求原因1、2及び4のとおり。
2 原告会社の代表取締役である被告嶋川及び被用者である被告坂本は、共謀の上、被告辻に対して詐欺行為を行い、前記のとおりの損害を被らせた。
3 よって、被告辻は、被告嶋川及び被告坂本に対し、民法七一九条一項に基づく損害賠償請求として、各自、前記損害の一部である一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成三年二月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実に対する認否は、乙事件の主位的請求の請求原因に対する認否のとおり。
2 同2の事実のうち、被告嶋川が原告会社の代表取締役であること及び被告坂本が被用者であることは認めるが、その余は否認する。
第三 証拠<省略>
理由
第一甲事件の請求について
一請求原因について
1 請求原因1ないし3及び4(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 証拠(<書証番号略>、被告坂本本人)によれば、請求原因4(三)(原状回復費用の負担)の事実を認めることができる。
3(一) 証拠(<書証番号略>、被告坂本本人)によれば、被告辻は、昭和六三年一二月一九日、原告会社から本件什器等を代金一五〇〇万円で買い受け、内金一〇〇〇万円を同月二四日に支払い、残代金五〇〇万円は割賦で支払う旨合意し、後に右内金につき三二万四四二三円の返還を受けた上、平成元年二月一日、右残代金に金利相当分四〇万円を加えた合計五四〇万円につき、賃料の支払という形式をとることとして、請求原因5(一)のとおり本件什器等の賃貸借契約を締結したことが認められる。
(二) 証拠(<書証番号略>、被告坂本本人)によれば、請求原因5(二)(未払賃料及び運送料の負担)の事実を認めることができる。そして、本件什器等の賃貸借契約は、本件フランチャイズ契約に付随する契約であるといえるから、被告藤井は、本件什器等の未払賃料及び運送料についても連帯保証責任を免れないものというべきである。
4(一) 請求原因6(一)の事実のうち、原告会社が被告辻に対し、その主張の保証金一〇〇万円及び新南海からの売上保留金五六万九八三四円の返還義務を負うことは当事者間に争いがなく、証拠(<書証番号略>、被告坂本本人)によれば、原告会社が被告辻に対し、包材買受代金一八万五九五九円(うち消費税五四一六円)の支払義務を負うことが認められる。
(二) 請求原因6(二)(相殺の意思表示)の事実は、当裁判所に顕著である。
二抗弁について
1 原告会社が被告辻に対し、営業場所として本件店舗を紹介したこと、その際、被告坂本が被告辻に対し、新南海との間で最低保証を月四〇〇万円とする約束が存在する旨告げ、本件覚書を示したこと、被告辻が本件店舗を営業場所とすることに同意し、平成元年二月一日から平成三年一月三一日まで本件店舗においてクレープ等を販売したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と証拠(<書証番号略>、証人小松啓、被告辻本人及び同坂本本人の各一部)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件契約等に至る経緯
(1) 被告辻は、高校卒業後、昭和四六年四月に旧三井銀行(現さくら銀行)に入行し、主として営業関係の仕事をしていたが、昭和六三年一月、いわゆる脱サラをして姉の被告藤井と共同で商売を始めるために依願退職し、クレープ店の営業に絞って検討した結果、原告会社の存在を知り、同年七月ころ原告会社の本社を訪問した。被告辻は、原告会社の開発部次長である被告坂本から、フランチャイズ契約を一応締結しないことには営業場所の選定に協力できないと言われて、同年九月七日、原告会社との間で本件フランチャイズ契約を締結し、その際、平成元年九月三〇日までに南海線沿線において営業場所を決定する旨の覚書を交わして、営業場所の選定を進めた。
(2) 一方、原告会社は、昭和六三年二月一六日、新南海との間で、契約期間を同日から平成二年二月二八日までとして本件店舗を賃借し、毎月の売上金をいったん新南海に納入した上、その二二パーセント相当額を賃料として差し引かれて残余七八パーセントの返還を受ける旨の本件テナント契約を締結し、原告会社の直営店として営業を開始していた。新南海では、テナントの約八割に最低保証を設定していたが、昭和六二年二月ころ、原告会社からテナントの借受申込があった際、月六〇〇万円の売上試算を示され、月六〇〇万円の売上があるのであれば最低保証を設ける必要はないが、右売上は無理であると判断し、本件テナント契約の期間中最低保証を月四〇〇万円とすることを要求した。これに対し、原告会社は、右最低保証を平成元年二月二八日までの一年間にして欲しい旨要望し、新南海としても実際に月六〇〇万円の売上があれば、一年後に最低保証を増額してもよいし外してもよいと考えこれを承諾した。
(3) そこで、原告会社と新南海は、昭和六三年二月一六日、同年三月一日から平成元年二月二八日までの最低保証を月四〇〇万円とし(昭和六三年二月分については設定せず)、売上高が四〇〇万円に達しないときは原告会社は新南海に対し、売上高と四〇〇万円との差額の二二パーセント相当額を歩合責任金として支払う旨の本件覚書を交わした。しかし、直営店では、店長不在で店員がアルバイトであったこともあって、月一三〇万円程度の売上があったにすぎず、原告会社は、同年六月一六日、新南海から同年八月まで三か月間の最低保証の免除を受けてかろうじて経営を維持していたが、同年九月以降の売上高は月一〇〇万円を僅かに超えるにとどまった。
(4) 被告坂本は、昭和六三年一一月ころ、被告辻に対し、営業場所として本件店舗を紹介したが、その際、直営店の売上は毎月約一五〇万円程度で、経営は苦しいものの、それは、新南海との間で最低保証が月四〇〇万円と定められ、最低でも月八八万円の賃料を支払わねばならないからであると説明した上、本件覚書を示して、右最低保証は平成元年二月末日限り外れることになっているので、同年二月中のみ我慢すればその後は賃料が売上高の二二パーセント相当額になるから経営は楽になるだろうと見通しを話し、本件店舗を営業場所とすることに同意するよう勧誘した。これを受けて、被告辻は、本件店舗は集客力のある場所に位置し、通勤にも便利であって、それまでに被告坂本から紹介された営業場所より遥かに勝っている上、最低保証が撤廃されるのであれば、あまり営業努力のされていない直営店より一層の努力をして月一五〇万円以上の売上を挙げれば利益の多寡はともかく赤字経営になることはないと判断して、昭和六三年一二月一九日、原告会社との間で、本件店舗を営業場所と決定する旨の覚書を交わした。
(5) その際、被告辻は、新南海に対して、最低保証の撤廃の合意の存在を確認したことはなく、被告坂本に対しても、最低保証が撤廃されると、賃料が直営店当時より大幅に下回ることもあり得る(例えば、売上高が月一五〇万円とすれば賃料は三三万円)が、それでも新南海が承諾したのかなどの点について問いただすことはせず、最低保証の撤廃の合意の存在を書面化して欲しい旨の要求もしなかった。また、被告辻の自己資金が約一〇〇〇万円であったことから銀行融資を受けることになり、同被告は、同月二〇日ころ、原告会社から右融資に必要な収支試算表の交付を受けたが、これには初年度の売上目標は月二二〇万円、賃料は最低保証が存在しないことを前提として売上高の二二パーセント相当額である旨記載されており、かつ、催事による売上の記載は無かった。
(6) 被告辻は、平成元年一月九日から同月二一日まで店長研修に参加した後、同年二月一日、本件業務委託契約を締結し、自己資金約一〇〇〇万円と銀行借入金一二〇〇万円を投入して、本件店舗においてクレープ等の販売を開始した。被告辻が本件店舗において売り上げた売上金は、いったん新南海に納入され、新南海により家賃相当分を差し引かれた後原告会社に返還されて、原告会社により売上高の五パーセント相当額のロイヤリティ等を差し引かれた上、その残額が被告辻に対し返還されるという形態になっていた。
(二) 本件店舗の閉店に至るまでの経緯
(1) 被告坂本は、原告会社の担当者として、新南海に対し、本件店舗の売上が低迷しているため最低保証の撤廃を要求したが、新南海は、これに応ぜず、平成元年二月末ころ、同年三月から一年間は最低保証を三〇〇万円に減額することを了承したにとどまり、右合意及び平成二年三月から平成三年二月までは最低保証を月四〇〇万円にする旨記載した平成元年三月一日付覚書を原告会社に対し送付した。
(2) 被告辻は、平成元年二月二〇日ころ、被告坂本から、同年三月からも最低保証は撤廃されず三〇〇万円に減額されるにすぎない旨の連絡を受け、これに抗議した結果、同年五月二二日、最低保証が撤廃されない代わりに本件什器等の賃料の支払を先送りする旨の連絡を受けたが、その後も、同年一二月一日に本件訴訟代理人とともに原告会社の代表取締役である被告嶋川に会うなどして抗議を続けた。
(3) そこで、原告会社は、新南海に対し、常務である末田省世名義の平成元年一二月一四日付書面で賃料軽減の依頼をしたが、返答がないため、さらに、被告嶋川名義の同月二一日付書面により、オープン当初の一年間は最低保証を定めるが、それ以降はこれを外す約束であったので、最低保証を外すか減額して欲しい旨要求した。これに対し、新南海は、右約束の存在を否定し、平成二年一月一二日付書面で、原告会社に対し、前記の平成元年三月一日付覚書に署名捺印して返送するよう要求し、原告会社は、平成二年二月一六日、右覚書に署名捺印して新南海に対し返送した。
(4) 本件店舗における平成元年二月以降の売上高は、別紙売上高一覧表記載のとおりであり、直営店のころよりは上がったが、目標どおりには伸びなかった上、最低保証が撤廃されなかったため、平成元年二月は八八万円、同年三月は六六万円、同年四月から平成二年二月までは毎月六七万九八〇〇円(うち消費税一万九八〇〇円)、同年三月から平成三年一月までは毎月九〇万六四〇〇円(うち消費税二万六四〇〇円)を賃料相当額として支払ったこともあって赤字が続き、被告辻は、平成三年一月三一日をもって、本件店舗を閉店した。
2 抗弁1(要素の錯誤)について
前記認定事実によれば、被告辻は、原告会社と新南海との間で最低保証の撤廃の合意が存在していると信じ、撤廃による利益の増加を見込んで本件店舗を営業場所とすることに同意し本件業務委託契約を締結したものであり、もしこれが撤廃されないことが当初から確実であれば、同被告において右契約を締結することはなかったであろうと推認して妨げはない。しかし、このことは、被告辻が右契約締結の意思表示をするについての動機に錯誤があったにすぎないところ、右認定事実に照らすと、同被告がその動機を右契約の締結に際し、相手方である原告会社に対して表示したものと認めるに足りず、他に、その的確な証拠はないから、法律行為の要素に錯誤があったものとはいえない。したがって、抗弁1は採用することができない。
3 抗弁2(詐欺による取消)について
前記認定事実からすれば、原告会社の従業員である被告坂本は、本件業務委託契約締結の際、原告会社と新南海との間で平成元年二月末日限り最低保証が撤廃される旨の合意が存在せず、また、その撤廃の可能性が高いとはいえないにもかかわらず、右合意が存在しているかのように受け止められかねない説明をしたものということができる。しかしながら、少なくとも原告会社と新南海の間では最低保証について見直すことが予定されており、現に、右契約締結後も、被告坂本が新南海に対して再三にわたり最低保証の撤廃ないし減額の要求をしていた事実に照らしても、最低保証の撤廃が全く不可能であり、かつ、同被告において、その事実を知りながらあえて詐言を弄し、被告辻を錯誤に陥らせようとの詐欺の故意があったということはできないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁2は採用することができない。
4 抗弁3(債務不履行による解除)について
前記認定事実によれば、原告会社が新南海との間で最低保証を撤廃する旨被告辻に対して確約したということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、抗弁3も採用することができない。
三以上によれば、原告会社の請求はいずれも理由がある。
第二乙事件について
一主位的請求(不法行為による損害賠償請求)について
1 請求原因1の事実は、前示のとおり当事者間に争いがない。
2 同2(詐欺)の事実について検討するに、原告会社の被用者である被告坂本が、新南海と原告会社との間で最低保証の撤廃が全く不可能であったにもかかわらず、虚偽の事実を申し向け、その旨誤信した被告辻をして、本件店舗での営業を開始させ、これにより金員を騙取しあるいは赤字経営を余儀なくさせ損害を被らせたとまでいえないことは、前示のとおりであり、他に被告坂本の詐欺の事実を認めるに足りる証拠はない。
3 そこで、同3(信義則上の保護義務違反)の事実について検討するに、被告辻の主張する原告会社の信義則上の保護義務違反は、前記事実関係の下においては、後述のとおり債務不履行責任の問題として論ずべきものであるから、右主張は採用することができない。
4 したがって、被告辻の主位的請求は理由がない。
二予備的請求(債務不履行による損害賠償請求)について
1 請求原因について
(一) 請求原因1の事実は、当事者間に争いがなく、同2の事実が認められないことは、前示のとおりである。
(二) そこで、同3(信義則上の保護義務違反)の事実について検討する。
一般に、フランチャイズ・システムにおいては、店舗経営の知識や経験に乏しく資金力も十分でない者がフランチャイジーとなる場合が多く、専門的知識を有するフランチャイザーがこうしたフランチャイジーを指導、援助することが予定されているのであり、フランチャイザーはフランチャイジーの指導、援助に当たり、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているものというべきである。被告辻が本件店舗を営業場所とすることに同意した主要な動機が最低保証の撤廃による利益の増加にあったこと、それにもかかわらず、その動機が本件業務委託契約の締結に際し原告会社に対し表示されたものとはいえないことは、前示のとおりである。しかしながら、前記認定事実に照らすと、原告会社は、右契約に先立つ直営店当時の営業成績からしても、本件店舗における営業においては、原告会社と新南海との間の最低保証の約束の存否が損益分岐の極めて大きな要因であることを十分認識していたはずであり、この点についての具体的な情報も把握していたのであるから、いわゆる脱サラをして原告会社のフランチャイジーとなり新規に店舗経営を始めようとする被告辻に対しては、営業場所の選定に当たり、本件店舗の最低保証に関する客観的かつ的確な情報を提供すべき義務があったといわなければならない。しかるに、被告坂本は、原告会社と新南海との間で平成元年二月末日限り最低保証が撤廃される旨の合意が存在せず、また、その撤廃の可能性が高いとはいえないにもかかわらず、右合意が存在しているかのように受け止められかねない説明をし、それを裏付ける資料として本件覚書を示し、被告辻に不正確な情報を与えて営業場所を本件店舗とすることを決意させたものであるから、原告会社は被告辻に対する前記義務に違反したといわざるを得ない。
ところで、原告会社は、被告坂本は被告辻に対し、最低保証が外れるよう努力したい旨説明したにすぎないし、最低保証が撤廃されなくてもデパート等の催事を行えば黒字になる目算があったのに、被告辻がこれを行わなかった旨主張し、被告坂本本人尋問の結果中には、右主張に沿う供述部分がある。しかしながら、被告坂本が被告辻に対し本件店舗を紹介した際の説明は、前記認定のとおりであり、また、原告会社が被告辻に対して交付した収支試算表(<書証番号略>)には、賃料は最低保証が存在しないことを前提として売上高の二二パーセント相当額である旨記載され、かつ、催事による売上の記載は無かったのであり、さらに、最低保証が撤廃されないことに対する被告辻の抗議に対応して、原告会社は、新南海に対し、あたかも最低保証の撤廃の合意があったかのような表現で、再三にわたり撤廃ないし減額の要求をしているのであるから、こうした点に照らすと、被告坂本の右供述は信用することができず、原告会社の右主張は採用の限りではない。
(三) 進んで、請求原因3(損害)の事実について検討する。
(1)フランチャイズ加盟料等
証拠(<書証番号略>、被告辻、同坂本各本人)によれば、被告辻は、原告会社に対し、本件フランチャイズ契約に基づき、研修費、店舗内外装監理費、フランチャイズ加盟料、開発分担金及び保証金の合計四〇〇万円を支払ったことが認められるが、被告辻は、営業場所を本件店舗に決定する前に、原告会社と右契約を締結していることは前記認定のとおりであるから、右金員の支払は原告会社の前記義務違反と相当因果関係のある損害ということはできない。
(2) 仲介料
証拠(<書証番号略>、被告辻本人)によれば、被告辻は、昭和六三年一二月二四日、被告坂本の指示により本件店舗の紹介者である川口規矩夫に対して仲介料一〇〇万円を支払ったことが認められ、右金員の支出は原告会社の前記義務違反と相当因果関係のある損害というべきである。
(3) 最低保証が撤廃されなかったことによる賃料差額
前記認定によれば、被告辻は、平成元年三月から平成三年一月まで合計一八一〇万八二〇〇円を本件店舗の賃料相当額として負担したところ、右期間中の売上高の合計は四一八九万四九二五円であるから、仮に最低保証が撤廃されたとした場合の右期間中の賃料相当額は右売上高の二二パーセントに相当する九二一万六八八三円(円未満切捨て)であり、その差額は八八九万一三一七円となる。そして、右差額相当額は、被告辻が最低保証の撤廃の合意の存在を信じて営業場所を本件店舗に決定したことによって生じた損害とみることができるから、原告会社の前記義務違反と相当因果関係のある損害というべきである。
(4) 売上留保金
売上留保金が被告辻に返還されるべきものであることは前記のとおり原告会社の自認するところであるが、右返還義務は本件テナント契約及び本件業務委託契約に基づいて発生したものであるから、原告会社の前記義務違反によって被告辻に生じた損害とみることはできない。
(5) 本件什器等に関する支出
前記のとおり、本件什器等に関する被告辻の支出は、本件フランチャイズ契約に基づくものというべきであり、本件店舗を営業場所として選定しなかったとしても支出を免れなかったものということができるし、また、同被告は、本件什器等を二年間使用しており、右什器等に関する同被告の支出はその使用の対価であるといえるから、右支出をもって原告会社の前記義務違反による損害ということはできない。
(6) 慰謝料
被告辻は、前記認定のとおり、約一七年間勤務した銀行を退職し、その間に蓄えた自己資本等を投入して商売を始めたにもかかわらず、最低保証が撤廃されなかったことが大きな要因となって営業開始直後から経営が危機に瀕し、結局二年間で閉店を余儀なくされたものである。しかしながら、同被告がこれにより精神的苦痛を被ったとしても、前示事実関係の下においては、その苦痛が財産的損害の賠償によっては慰謝され得ない程度の著しいものであったと認めるに足りないから、同被告の慰謝料請求を肯認することはできないものというべきである。
(四) 証拠(<書証番号略>)によれば、請求原因4(債務不履行による損害賠償の請求)の事実を認めることができる。
2 抗弁(過失相殺)について
(一) 前示のとおり、フランチャイズ・システムにおいては、専門的知識を有するフランチャイザーがフランチャイジーを指導、援助することが予定され、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているとはいえ、フランチャイジーを利用してチェーン店を拡大し利潤を上げようとするあまり、フランチャイジーに対してセールストークや駆け引きを用いることもあり得ないことではない。他方、フランチャイジーも、単なる末端消費者とは異なり、自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する以上、フランチャイザーから提供された情報を検討、吟味した上、最終的には自己の判断と責任においてことを決するほかないというべきである。本件の最低保証という制度は、それ自体一般には馴染みの薄いものであるとしても、前記認定事実によれば、被告辻は、本件店舗を紹介された際、その存在を知ったのであるから、必ずしも専門的知識を要求される事項とはいえない最低保証の撤廃に関しては、いわゆる脱サラの同被告にとってもこれを検討、吟味することが十分可能であったといわなければならない。最低保証の存在を前提として月八八万円の賃料を取得していた新南海とすれば、最低保証を撤廃することにより、例えば月一五〇万円の売上の場合には月三三万円の賃料で甘んじることになるのであり、このようなことは通常考えられないところである。それにもかかわらず、被告辻は、本件店舗を紹介された際、その立地条件の優位性にのみ気を取られ、新南海が最低保証を撤廃することになった理由等について被告坂本に詳しい説明を求めるなど、最低保証の存在について検討、吟味することなく、短時間のうちに営業場所を本件店舗とすることに同意しているのであって、これは、多額の自己資金及び借入資本を投下して商売を始めようとする者としていささか軽率であったといわざるを得ない。もっとも、被告辻が最低保証の徹底について新南海に対し確認しなかったことは当事者間に争いがないが、新南海は、本件店舗の賃貸人として原告会社との間で本件テナント契約を締結し、最低保証の撤廃も賃料額を左右する重要な事項として原告会社との間で交渉していたのであるから、被告辻が、直接の交渉相手でない新南海に対して最低保証の撤廃の合意の有無につき確認することまで要求することは酷に失するものというべきである。そこで、以上の諸点に本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、原告会社の前記義務違反による損害賠償額を定めるに当たっては、公平の原則に照らし、被告辻に生じた損害につき四割の過失相殺をするのが相当である。
(二) そして、原告会社の義務違反と相当因果関係のある損害の合計額は、九八九万一三一七円であるから、これから四割を減じて被告辻の損害額を算出すると、五九三万四七九〇円(円未満切捨て)となる。
3 以上によれば、被告辻の予備的請求は、原告会社に対し、五九三万四七九〇円及びこれに対する請求の日の後である平成三年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を認める限度において理由があるものというべきである。
第三丙事件について
被告嶋川が原告会社の代表取締役であること及び被告坂本が被用者であることは当事者間に争いがない。しかしながら、被告坂本が被告辻に対して詐欺行為を行ったものといえないことは前示のとおりであり、被告嶋川が、被告坂本と共謀の上、右同様の行為をしたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、被告辻の請求はいずれも理由がない。
第四結論
以上の次第で、甲事件における原告会社の請求は、理由があるから認容し、乙事件における被告辻の請求は、原告会社に対し、五九三万四七九〇円及びこれに対する平成三年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を認める限度において理由があるから認容し、主位的請求及びその余の予備的請求は失当であるからいずれも棄却し、丙事件における被告辻の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項ただし書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官篠原勝美 裁判官吉田健司 裁判官鈴木順子)
別紙
売上高一覧表
平成元年 2月
156万5970円
3月
181万3040円
4月
155万8634円
5月
159万1207円
6月
140万6177円
7月
155万9700円
8月
190万5675円
9月
160万2611円
10月
169万3288円
11月
178万1228円
12月
216万2503円
平成 2年 1月
214万2080円
2月
183万4152円
3月
217万7361円
4月
195万9448円
5月
184万0736円
6月
155万6755円
7月
176万2535円
8月
195万4260円
9月
165万4605円
10月
180万5049円
11月
178万4033円
12月
218万7610円
平成 3年 1月
216万2238円